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大阪地方裁判所 平成11年(モ)248号 決定

主文

相手方は、当裁判所に対し、次の従業員に関する履歴台帳を提出せよ。

(一)  昭和三六年から昭和四五年までの間に事務技術職掌として採用され、平成七年七月時点で在籍する高卒男性従業員(ただし、出向者を含み、技能職掌からの職掌転換者を除く。)

(二)  昭和三四年から昭和五〇年までの間に採用され、平成七年七月時点で在籍する女性従業員

理由

一  申立ての要旨

申立人らは、相手方が作成し、所持する主文掲記の履歴台帳(以下「本件文書」という。)につき、民事訴訟法二二〇条四号に基づいて提出命令を求め、相手方は、右文書は同号ハの、専ら文書の所持者の利用に供するための文書(以下「自己使用文書」という。)に該当するうえ、従業員のプライバシーを侵害することになり、かつ提出の必要性もないと主張する。

二  当裁判所の判断

1  本件文書は、相手方が全従業員につき、主として、その社内の異動歴を明らかにしておくため作成していた台帳で、記載事項は生年月日、社員番号のほか、出身校、学科、出身校の在籍期間、社内での配属部署と配属の時期等であり、主として人事異動を決定するに際し、それまでの社内の異動歴を参考とするために利用されていたが、他方で、平成四年ころまでは、労働基準法に定める労働者名簿としても利用されてきたものである。

相手方は、労働者名簿については、平成四年以降、履歴台帳と異なる様式のものが作成されており、それ以前における労働者名簿の様式は明らかでないが、その使用目的や記載内容から見て、履歴台帳は労働者名簿には当たらないと主張するが、昭和三四年に制定され、昭和六三年に廃止された相手方の文書保存年限表には「労働者名簿(履歴台帳)」と表示されており、他に労働者名簿と呼べるものが存在すると認めるに足りる証拠もないから、相手方においては少なくとも平成四年ころまでは履歴台帳が労働者名簿を兼ねていたと認めざるを得ない。

自己使用文書とは、専ら所持者の利用に供する目的で作成され、外部の者に見せることが全く予定されていない文書をいうと解すべきところ、労働者名簿は、労働基準法が労働基準監督行政の便宜のために使用者に調製及び記入を義務づけた文書であって、必要があれば、監督官庁が労働行征上の必要性からその提出を受けて利用することを予定した文書であるから、これが所持者以外の者の利用を前提としていることは明らかである。従って、相手方における履歴台帳は、労働者名簿としての目的を兼ねていた以上、自己使用文書とはいえないものである。

なお、相手方においては、平成四年以降、履歴台帳とは別に労働者名簿を調製するに至っており、現在では、履歴台帳は労働者名簿として使用されていないことが認められるが、履歴台帳の記載内容が大きく変化したという事情も認められないから、これが労働者名簿を兼ね、労働基準監督行政の便宜のために使用された文書であるという性質を失うものではなく、労働者名簿としての使用を止めたことによって、その文書の性質が自己使用文書に変じたということはできない。

さらに、相手方は、従業員のプライバシー侵害を問題にするが、これがあるからといって直ちに自己使用文書となるものではないうえ、その記載内容は、生年月日、社員番号のほか、出身校、社内での配属部署と配属の時期等であり、これらが労働者名簿の記載事項と大差のない事項であることからすれば、従業員のプライバシー侵害を根拠に文書提出義務を否定することはできないというべきである。

2  相手方は、本件文書提出命令の申立てにおける立証趣旨が申立人ら女性従業員と男性従業員に昇進格差があることを掲げるが、履歴台帳には、申立人ら事業所採用の従業員については昇進時期の記載がなく、申立人らが比較対象としている本社採用の従業員と比較ができないから、その提出の必要性がないと主張する。しかしながら、職分階級については記載があり、相手方主張の本社採用の従業員の場合は、昇進時期の記載もされ、社内の異動歴は、すべての従業員について、所属の部署やその部署に配置となった年月が記載されているのであって、少なくとも最終到達点は明らかにでき、他の立証と併せて見るときは、本件文書が女性従業員と男性従業員との昇進格差の有無及びその内容を明確にする資料となるものであって、その提出の必要性を肯定できる。相手方は、格差の存在自体を争うものではないが、本件で問題となっているのは、格差存在の合理性であるから、格差の存在に争いがないことをもって、右必要性を否定できない。

3  以上のように、履歴台帳は、民訴法二二〇条四号のハに該当する文書であるとはいえず、また、同号イ又はロに該当する文書でないことは明らかであって、その提出の必要性を肯定できるから、相手方には、その提出義務があるというべきである。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 川畑公美 裁判官 和田健)

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